【連載もの】介護制度について考える 第15回
FAXの活用
名古屋の私と札幌の両親との連絡手段は、私が学生のころから電話が中心でした。ところが両親が高齢になってくると耳は遠くなるし記憶力も低下するので、電話でうまく用件が伝わらないことも増えました。電話に出た父がこちらの声を聞き取れずに受話器を置いてしまうこともありました。電話で頼んでおいた用件を忘れてしまうこともありました。
そこで数年前からFAXを使うようにしたのです。用件を太く大きな字で書いてFAXで送ると、間違えることなく伝わるので助かりました。
舞い込んだFAX
そんなある日、私の家に一枚のFAXが届きました。文面には「あなたがFAXを送った相手は、分別しないでゴミを捨てています・・・」などと書いてありました。
『えっ?・・・』よく意味が分かりません。差出人の名前にも心あたりはありません。何かの間違えかと思いましたが、何度も読み返してようやく意味が分かりました。
そのFAXは札幌の実家の近くに住む鈴木さん(仮名)という方からでした。鈴木さんによれば、正しく分別されていないゴミ袋が集積所に置いてあったので中を調べたところFAXの手紙が入っていて発信元には私の家のFAX番号が記されていたそうです。だから私がFAXを送った相手が、ゴミを分別しないで捨てた「犯人」に違いない。それで私からその「犯人」に、きちんと分別するよう伝えてほしいとのことでした。
やれやれ・・・
実家では、ゴミを分別して捨てに行くのは昔から父の仕事でした。かつて父は生真面目で几帳面な性格でしたから、いいかげんに分別することなどありませんでした。元気なころはゴミ集積所で仁王立ちして、分別しないゴミの投棄を注意したり率先して掃除をしたりするタイプでした。それが歳と共にゴミの分別も困難になっていたようです。
わたしは件の鈴木さんに電話し、ゴミを捨てた「犯人」は父であろうと伝えました。そしてお詫びしつつ、父には認知症の兆候があってゴミ分別が難しくなっていると思うと伝え事情を理解していただきました。
高齢者とゴミ出し
最近はどこの自治体でもゴミを細かく分別して出すようになりました。環境には良いことですが、高齢者だけの世帯にとっては分別自体が大きな負担です。実家では、ゴミを「燃えるゴミ」「燃えないゴミ」「ビン、カン」「プラスティック」などの箱に分けて工夫して捨てていました。区役所で「ゴミ収集日カレンダー」をもらって来て、曜日ごとに仕分けて収集日を間違えないようにいつもチェックしていました。でも歳を重ねるごとにテキパキ判断することが苦手になります。高齢者二人の暮らしでは曜日の感覚も薄くなります。分別に迷ったり曜日を間違えたりして夫婦で言い争うこともあったようです。やっと分別しても、それをゴミ集積所まで持って行くのにまたひと苦労。
札幌市には「要介護者等ごみ排出支援事業」というゴミ捨て支援の制度があります。しかし利用できるのは世帯全員が要介護二以上の場合に限られ、(平成二四年当時)要介護一と要支援二だった両親は制度の対象外でした。
「家庭のゴミを出す」という何でもない作業も高齢者には大きな負担やストレスのタネになってしまうものです。
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西村正広氏略歴:日本福祉大学大学院修了
社会保険中京病院
ソーシャルワーカーなどを経て現職
専門:社会保障