介護制度について考える 第22回
入院して(2)
家族の承諾
平成二十五年五月に入院した父は、ベッド上の生活を余儀なくされ、急速に認知症と歩行障害が進んで寝たきりになってしまいました。入院の直後は、まだ「自分が病院に入院した」という意識を持っていたようですが、やがて自分自身の状況や居場所も分からなくなっていきました。
入院から数日して、病棟の看護師から私に「抑制」の話がありました。「抑制」とは、患者をベッドに拘束することです。父は昼夜の区別なくベッド柵に手を掛けて起き上がろうとしたり、点滴のチューブやモニターのコードなどを引き抜こうとしたりするので、安全のため拘束はやむを得ないと言うのです。人権にかかわることですから、病院は家族へ拘束の必要性を説明し、同意を得ることになっています。私は母にも事情を話して、承諾のサインをしました。また、主治医から、父へ精神安定剤を投与するので了解してほしいと言われました。父は昼間ベッドの上でうとうとしているので夜になっても眠れず、夜間にもぞもぞ動いたり声を上げたりするそうです。そんなとき、安定剤を飲ませて静かにさせたいとのこと。家族からすれば、父が拘束されたり、治療でもなく「おとなしく」させるために薬を飲まされるのは望みません。でも、スタッフや他の入院患者に迷惑もかけられません。私もかつて病院に勤めていましたし、多くの医療機関の実態も見ているので、承諾せざるを得ませんでした。
そのほかにも、父の意思確認が出来ないので、病院はいろいろと家族に承諾を求めます。私が名古屋に戻っている間も、母はR病院へ父の見舞いに行くたびに、検査やら処置やらをするといっては承諾を求められ混乱していました。医学知識のない母ですから、承諾せよと言われても困るのです。結局、そのつど母は電話で私に相談してきました。私は病院にお願いして、父の治療に関することは、いちいち母に説明せず名古屋の私に連絡してもらうことにしました。
退院といわれても
父が入院したときから、私は「退院後」を心配していました。腸の病気で入院したので、その病気が改善すれば退院しなければならないのです。でも、病気は治っても、入院してから進んでしまった認知症、そして歩行できなくなった身体は入院前には戻りません。
家族からすれば、入院前と同じ状態まで戻してもらいたい。戻らないとしても、そのまま父を入院させてもらって世話をしてほしい。しかし、いまの制度上それは無理なのです。病院は病気を治す場所であって、介護をするのは目的とされていないからです。
制度でそうなっているとはいえ、寝たきりになってしまった父が自宅に帰っても、母一人で父を介護するのは不可能です。ホームヘルパーやデイサービス、訪問看護、訪問入浴など介護保険のサービスを総動員したとしても、一日のうち大部分は母が一人で面倒見なければなりません。母自身が要支援二で他者の手助けを必要とする身なのです。そうなると、退院後は介護をしてもらえる施設に入所するという選択肢しかありません。
しかし、その施設が足りないのです。介護してくれる施設が十分にあれば、病院での治療が終わって退院といわれても困りませんが、入れる施設は足りないのが全国的な現実です。父の「退院後」をどうしよう。私は、黒い雲のような不安に包まれていました。