WEBワライフ

三河・遠州地域の介護施設検索・介護情報総合サイト「ワライフ」

「水を飲んでも太る」って、どういうこと?

医療法人社団福祉会 高須病院 看護部 副看護部長
糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士
兵頭裕美

「水を飲んでも太るんです」

 この言葉、聞いたことありませんか?あるいは、ご自身で言ったことがあるかもしれません。今回は、「水を飲んでも太る」とはどういうことかを考えてみたいと思います。
 実際に糖尿病療養指導をしていると、「水を飲んでも太る」と言われる患者さんにはときどき遭遇します。これは食事療法への努力が報われないことへのあきらめや、いら立ちがこもった言葉なのかもしれません。その原因を見極めることは、治療へのモチベーションを維持するためだけでなく、深刻な病態・合併症を見逃さないためにも重要になります。

「水を飲んでも太る」とは?

 「水を飲んでも太る」という患者さんは、「過食」「食べ過ぎ」という言葉に敏感です。そのため、食事量が多すぎると決めつけてはいけません。消費エネルギー量と比較して摂取エネルギー量が少しでも多ければ体重は増加することをまず理解しましょう。その差に自ら気づくことが大切なのです。
 総エネルギー消費量は、基礎代謝量、食事誘発性熱産生、身体活動量で構成され、さらに身体活動量は運動と日常生活活動によるもの(仕事や家事など)に分けられます(前号で詳しく説明しています)。短期間では、基礎代謝量と食事誘発性熱産生は日々の生活ではほとんど変動せず、日常生活活動も休日以外は変動しないことが多いため、変動する消費エネルギーは運動によるものと考えられます。一方、もう少し長い目で見ると、職場の異動などで生活活動が変化することもありますが、もっとも重要な役割を担うのは、消費エネルギーの60%を占める基礎代謝量です。
 つまり、「水を飲んでも太る」とは、摂取エネルギー量と消費エネルギー量の見積もり間違いにより、バランスがつり合わない状態にあるということです(図1)。短い期間で考えれば、食事エネルギーの過少評価と運動エネルギーの過大評価が原因となり、長期的には、基礎代謝量が低下したにもかかわらず、以前と同じ消費量を期待していることが原因です。

高須様記事no27_1

食事による摂取エネルギーは案外大きい

 患者さんが認識する食品のエネルギー量は、実際よりも少なく見積もってしまう傾向があります。客観的な摂取量が把握できていないことも多いため、管理栄養士による食事調査を含めた栄養指導を受けることや、口に入るものすべての種類、量、時間帯を記録して、客観的な摂取エネルギーを把握することが重要です。
 脂肪組織1㎏(7200kcal相当)を1か月で減量するには、1日240kcal分の食事を減らすか、消費エネルギー量を増やす必要があります。逆に、1日たった240kcalの追加摂取が、1か月に1㎏の脂肪組織増加につながります。ごはん軽盛り(100g)を3食ともに普通盛り(150g)にするだけで約240kcalの追加になるため、無意識に過剰摂取していることもあります(図2)。

高須様記事no27_2

運動によるエネルギー消費は案外少ない

 運動による消費エネルギー量は、食事とは逆に、実際よりも多く見積もってしまう傾向があります。

高須様記事no27_3

表1を見ていただくと、コンビニで手軽に手に入る、具のない塩おにぎり(160kcal:2単位)1個を消費するために、水泳やマラソンのような激しい運動は別として、案外多くの運動量を必要とすることがお分かりいただけると思います。塩おにぎりと同じ160kcal分の食品の目安は、図3のとおりです。

高須様記事no27_4

 運動療法には、心筋梗塞などの心血管合併症の抑制、心臓機能や呼吸機能の維持、筋肉量の維持と同時に基礎代謝量の維持・増加、認知症予防などの多くのメリットがあります。その効果は、その場限りのエネルギー消費を期待するものではないことを知っておく必要があります。

それでも太るのは・・・「サルコペニア肥満」かも!?

 見積もり間違いによる食べ過ぎがなく、管理栄養士による食事調査を行っても、なお生活活動に見合った食事エネルギー量しか摂取していないと考えられる場合は、消費カロリーの60%を占める基礎代謝量が低下している可能性があります。その場合、健康寿命に大きな影響を及ぼす「サルコペニア肥満」の可能性を考えます。
 サルコペニア(加齢性筋肉減少症)とは、全身性の筋肉量の低下を主体として筋力低下あるいは動作能力の低下を伴う病態のことです。そのサルコペニアに肥満を合併したものが、サルコペニア肥満です。運動を伴わない不適切な食事療法を契機に、体脂肪よりも筋肉量が減少し、それに基づく基礎代謝量の低下と、インスリン抵抗性や活動量減少のため、消費エネルギー量はさらに減少し、体脂肪量のさらなる増加を招きます。
 サルコペニア肥満では、サルコペニア単独やメタボリックシンドローム単独よりも、高血圧症、脂質異常症、2型糖尿病、心血管疾患などのリスクが高くなり、活動性の低下や寝たきり状態を引き起こすもっともリスクの高い状態であることが報告されています。サルコペニア肥満を避けるためにも、食事療法には運動療法を合わせて行うことが重要です。

高須様記事no27_5

参考文献
細井雅之 編著、「魔法の糖尿病患者説明シート」、メディカ出版、2016

前の記事 介護・健康コラム 次の記事