「ひきこもり」について①
「ひきこもり」という言葉を耳にしたことのない人は、まずいないと思います。では「ひきこもり」をちゃんと説明できる人はどのくらいいるでしょうか。
愛知県や厚生労働省などのHPをもとに、どういう状態なのか、本人やまわりの人たちはどう捉え、どう考え、どうすればいいのかなど、「ひきこもり」についてお伝えします。
「ひきこもり」って?
そもそも「ひきこもり」とは?
厚生労働省の定義では「さまざまな要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学、非常勤職を含む就労、家庭外での交遊など)を回避し、原則的には、6か月以上にわたっておおむね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念」としています。
どのくらいの人がひきこもりなの?
内閣府関係調査では
広義のひきこもり状態にある者 54.1万人、狭義のひきこもり状態にある者17.6万人※
平成28年9月 「若者の生活に関する調査報告書」より
厚生労働省関係調査では
ひきこもり状態にある世帯数 約26万世帯
平成18年度 厚生労働科学研究「こころの健康についての疫学調査に関する研究」による推計
※「広義のひきこもり」、「狭義のひきこもり」について
内閣府の平成28年9月 「若者の生活に関する調査報告書」は15歳以上39歳以下限定の5000人と、同居する成人家族を対象に行われました。その調査で、以下の結果が出ました。
Aふだんは家にいるが、自分の趣味に 関する用事のときだけ外出する
Bふだんは家にいるが、近所のコンビ ニなどには出かける
C自室からは出るが、家からは出ない 又は自室からほとんど出ない
左は有効回収率に 占める割合(%) 右は全国の推計数 (万人)
A 1.06% 36.5万人
B 0.35% 12.1万人
C 0.16% 5.5万人
以上の結果から
A=準ひきこもり 36.5万人
B+C=狭義のひきこもり 17.6万人
準ひきこもり+狭義のひきこもり=広義のひきこもり 54.1万人
「総務省『人口推計』(2015 年)によれば、15~39 歳人口は 3,445 万人なので、広義のひきこもり の推計数は下記の計算より 54.1 万人となる。」と報告書ではされています。
なおこの調査には、前回平成22年度の調査で「ひきこもり」層に占める割合が23.7%と最も多かった35~39歳層をはじめ40歳以上が調査対象になっていないこと、また「専業主婦・主夫」または「家事手伝い」さらに「家事・育児をする」なども対象から外され反映されていないことなどの問題点も指摘されています。
ではひきこもりとはどういう状態なのか以下、愛知県精神保健福祉センターHPの記事をもとにお伝えします。
「ひきこもり」って病気なの?
ひきこもりは「甘え」や「怠け」ではありません。ましてや単一の「病気」でもありません。
さまざまな要因が重なって社会的な参加の場面がせばまる
ひきこもりとは、一般的には、さまざまな要因が重なって社会的な参加の場面がせばまり、就労や就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態のことをさします。何らかの理由(生物学的要因、心理的要因、社会的要因など)がさまざまに絡み合って、周囲の環境に適応できにくくなった時「ひきこもり」という現象が現れるのです。
エネルギーを蓄えるために必要な休息期間
現代社会は、ストレス社会といわれ、人々は多くのストレスにさらされています。ストレスが大きすぎて自分の力ではどうにもできなくなった時、外からの刺激を遮断して自分の殻に閉じこもることにより、自分を守ろうとすることがあります。この状態を外から見ると「ひきこもり」になります。「ひきこもり」は、疲れきった状態の心にエネルギーを蓄えるために必要な休息期間だと考えられます。
「ひきこもり」の状態はさまざま
一口に「ひきこもり」と言っても、近所への買い物は行ける人、ずっと家の中に閉じこもっている人など「ひきこもり」の状態はさまざまです。また、何らかの精神的な病気や発達の障害が影響して、ひきこもり状態になる場合もあります。
ひきこもりによくみられる状態とまわりの対応、さらに病気についてご紹介します。
ひきこもりにみられる状態
昼夜逆転の生活を送る
朝から昼間にかけて太陽の光を浴びないと、体のリズムが崩れやすくなります。また、もともと人の体内時計は25時間程度の周期といわれており、時間を気にしない生活を続けていると昼夜逆転の生活になりやすいものです。
昼間は、世間にどんどん取り残されてしまうような不安、焦りにさいなまれ、辛くなることがあります。一方、みんなが寝ている夜は、周囲を意識せず、楽に過ごせることがあるようです。
生活リズムだけを整えようとしても、本質的な解決には結びつきません。人との会話や日中の活動が増えていけば、生活リズムも自然に改善していきます。
朝型の生活に戻したいと思ったときは、朝日を浴びる、日中体を動かす、決まった時間に起きる、などの方法が役立つかもしれません。少しずつリズムを取り戻していけるといいでしょう。
なんだかイライラする、暴力をふるう
体のリズムが崩れているときや、自分の中にたまったエネルギーをうまく発散できないときは、イライラしやすくなります。誰かに話したり、紙に書いたりすることが、イライラを和らげる手助けになることもあります。
自分でもどうにもできないもどかしさが起こり、家族にイライラをぶつけてしまうことがあります。言葉だけでなく、身体的な暴力が起こってしまうこともあります。
暴力は、自分も相手も傷つき、関係をこじらせてしまうものです。もし、自分の感情をおさえられず暴力をふるいそうになったら、いったんその場を離れましょう。その場を去ることは、決して卑怯なことではなく、勇気ある行動なのです。
同じことを何度も繰り返し、止められない
自分でも変だなと思いながら、手洗いや鍵の確認などの行動を何度も繰り返し、止めようと思っても止められないことを強迫行為といいます。
ひきこもっている状況そのものが、将来への不安を引き起こしやすくなります。不安に駆られて、あるいは不安を和らげるために、強迫行為が生じてくると考えられます。
症状だけに注目してただ止めようとするよりも、自分で回数を決めてみたり、ほかにすることを見つけることで、楽になることがあります。また、ご家族とのコミュニケーションが増えたり、薬を利用することで、状況が改善する場合もあります。
家族の対応
安心できる雰囲気づくりを
ひきこもっている状態が「甘え」や「怠け」に見えてしまうこともあるかもしれません。しかしご本人は「これから先どうなるのだろう」「どうせ自分の辛さは他の人にはわからない」と苦しみ、悩みを抱えていることが多いのです。
そんなとき、ご家族の何気ない一言がご本人を傷つけてしまったり、励ましのつもりがご本人を追い詰めてしまうこともあります。言葉で伝えようとしたり、何かをさせようとするよりも、まずは、ご本人の苦しさや辛さをこころにとめていただき、適度な距離をとって安心して過ごせる環境をつくっていきましょう。
「育て方が悪かった」とご自身を責めたり、家族どうしで責任をおしつけあったりすると、意識が過去に向いてしまい、これからどうするかを考える余裕がなくなってしまいます。また、どの家庭にも「問題」と思われることはいくつかは見つかるものです。「原因探し」「犯人探し」はやめましょう。
家族だけで抱え込まないで
ご家族も「どうすればいいのか」と悩み、強いストレスにさらされ、気分が落ち込むことがあります。また、世間の目を気にしてひきこもりの問題を隠そうとしたり、誰にも相談せずに解決しようとしがちです。
ご家族だけで抱え込んで、疲れ切ってしまったり、社会から孤立してしまうと、かえってよい考えが浮かばず、ひきこもりを長引かせてしまうことがあります。相談することでアドバイスが得られたり、違ったアイデアが見えてくることがあります。
ご本人を支援するためには、ご家族自身がリラックスし、自分の生活を楽しむことが大切です。ご家族がゆとりを持つことで、家の中の緊張がゆるみ、ご本人も少しずつ楽になっていきます。
暴力が起こったときは
ご本人は不安や孤立感を募らせるうちに、「こうなったのも家族のせいだ」と他者を責める気持ちになったり、「もうどうなってもいい」と自暴自棄になったりすることがあります。いらだちが抑えられなくなると、ご家族に対していろいろと要求したり命令的になってしまうことがあります。言葉だけにとどまらず、身体的な暴力が起こってしまうこともあります。
「退行(こども返り)」により、暴力が誘発される場合もあります。退行している人は、暴力をふるう相手を自分の所有物のように錯覚しているといわれます。退行を防ぐためには、スキンシップをさせないことです。過度のスキンシップがある場合は「嫌だからやめてほしい」とはっきり告げ、そのぶん会話をこころがけコミュニケーションを十分に確保しましょう。
「いかなる暴力も100%拒否する」これが基本的な態度です。特に、身体を叩く、殴る、蹴るなどといった身体的暴力は、たとえ小さなものであっても、毅然とした態度で「そういうことはしてほしくない」「暴力は嫌だ」と伝えてください。
慢性化した暴力(ささいなことから毎日のように突発するなど)がある場合は、ご家族が避難することはきわめて有効な手段です。また第三者が介入したり、警察へ通報したりすることも必要でしょう。
ひきこもりと病気
精神的な不調がある場合は、自分の努力だけで解決しようとせずに、精神科や心療内科で相談するとよい場合があります。カウンセリングや薬の助けを借りることによって、少し余裕ができると、次の手立てを考えることができます。 病気は決して恥ずかしいことではありません。病気かどうかを心配しているより、思い切って医療機関へ行ってみることで、少し楽になることもあるのです。
次のような場合には精神科や心療内科での医療の対象と考えられます。
長期にわたる「ひきこもり」生活に伴って、二次的に精神症状が生じる場合
はじめは、ストレスを避けるためにひきこもるようになったとしても、ひきこもり生活が長くなると、知らず知らずのうちに神経の疲れがたまり、さまざまな不調が出てくることがあります。
「何日間も続けてほとんど眠れない」「じっとしていられない」「同じことを何度も繰り返してしまう」「疑い深くなってしまう」「マイナスのことばかり考えて希望がもてない」「おっくうで動く気力がない」こういった状態があるときは、治療を受けることで楽になる場合が多くあります。
精神的な病気や発達の障害が強く影響して、「ひきこもり」状態となった場合
何らかの病気や発達の障害が、ひきこもりの主な原因になっていることがあります。その場合、病気や障害があるとわかれば、対策を考えやすくなります。薬物療法などの専門的医療の効果もかなり期待できます。
医療だけですべてよくなるというわけではなく、その後も本人の状況や特性を踏まえた支援が必要となります。
精神的な病気の例としては、以下のようなものがあります。
- 統合失調症:「誰もいないのに悪口が聞こえてくる」「盗聴器がしかけられている」「見張られている」など、周囲に過敏になっている様子があります。また、独り言を言ったり、奇妙な言動が目立ちます。
- うつ病:「おっくうで何もする気にならない」「何も楽しめない」「食欲がない」「よく眠れない」などの状態があります。「死んでしまいたい」という気持ちが起こることもあります。
- 強迫性障害:一日に何十回となく手を洗ったり、何度も繰り返し確認するといった行動があります。
- パニック障害:乗り物や人ごみの中で、ひどい動悸、息苦しさ、めまい、冷や汗などを伴う「パニック発作」を起こしたことがあり、また発作が起こるのではないかという不安があります。
- 社会不安障害(SAD):マイナスの評価を受けることや、注目を浴びるような状況に対して、強い苦痛を感じ、日常生活に支障をきたします。
- 広汎性発達障害:もともと軽い発達の偏りがあり、コミュニケーションや社会性の面で、苦手さがあります。
「『ひきこもり』について②」では、本人ができそうな工夫、家族の対応のヒントを載せてあります。ご本人やご家族が少しでも不安を和らげ、楽になるための手がかりになればと思います。
出典