睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係
医療法人秀麗会山尾病院 看護・介護部長
糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士
兵頭 裕美 氏
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病には深い関係があることをご存知ですか。実は、糖尿病は睡眠時無呼吸症候群の合併症として発症することもある病気です。睡眠時無呼吸症候群を深刻に捉えずに放っておくと、糖尿病になってしまう可能性も十分にあります。今回は、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の関係について、そしてその原因や対策についてご説明します。
なぜ起きる?睡眠時無呼吸症候群の原因とメカニズム
まず、睡眠時無呼吸症候群について簡単にご説明します。睡眠時無呼吸症候群はその名の通り、睡眠中に呼吸が止まってしまう病気です。その原因は大きく2つに分かれます。
1つは物理的要因で、空気の通り道である上気道が狭くなることで起こります。なぜ上気道が狭くなるのかというと、多くの場合その原因は肥満です。首回りやあご、気道内部などに脂肪がたまり、空気が通る孔を圧迫してしまうのです。睡眠時無呼吸症候群のほとんどはこれが原因で発生します。
もう1つの原因は呼吸中枢の異常です。眠っていると脳から呼吸指令が送られなくなり、それで呼吸が止まってしまうのです。
要注意!睡眠時無呼吸症候群のサイン
睡眠時無呼吸症候群の人は睡眠中に十分な休養が取れておらず、体にダメージを蓄積させ続けています。そのため、目を覚ました時に頭がずきずきする、熟睡感がない、体が重いなどといった症状がみられます。もしそのような状態が慢性的に続くようであれば要注意です。
自宅でもできる睡眠時無呼吸症候群の簡易検査
また、日中も強い眠気や倦怠感などにしばしば襲われ、集中力が持続しません。さらに、寝ていても急にむせたり、夜中に何度もトイレに起きたりします。家族と同居している場合はいびきや寝息をチェックしてもらうのもよいでしょう。いびきや寝息が急に止まり、大きな呼吸と共に再開されるといった症状が続くようであれば、睡眠時無呼吸症候群の可能性が高いと言えます。一度検査を受けた方がよいかもしれません。簡単な検査機器を使用し自宅で簡易検査を行うこともできます(右のイラスト)。
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病に関する調査結果
糖尿病になるリスクが1.62倍
さて、ではその睡眠時無呼吸症候群と糖尿病にはどんな関係があるのでしょうか。ある調査によると、睡眠時無呼吸症候群を患っていると、一般の人に比べて糖尿病になるリスクが1.62倍になるということがわかっています。また、睡眠時無呼吸症候群の重症度が高い患者ほど、糖尿病を合併症として発症する可能性が高くなるという調査結果も出ています。これらの調査結果から、睡眠時無呼吸症候群は糖尿病を発症させる重大な原因となっていることがうかがえます。
睡眠時無呼吸症候群に気付かないケースや、気付いていても重大性を認識していないことも
睡眠時無呼吸症候群は患っていることを本人が気付かないケースもありますし、気付いていてもその重大性を認識していないことが多いです。「糖尿病になるかもしれない」と言われてはじめて、事の重大さに気がつく人がたくさんいます。睡眠時無呼吸症候群そのものも大きな問題ですが、それ以上に糖尿病はさまざまな合併症の多い病気であるため、しっかり予防することが大切です。
睡眠の質の低下と糖尿病の関係
睡眠時無呼吸症候群になると、寝ている間に呼吸が止まることが多くなり、何度も目が覚めたり、息苦しい感覚になったりします。そうなると、睡眠の質が大幅に低下します。睡眠の質の低下と糖尿病の発症には、大きな関係があります。
睡眠の質が低下すると、体のなかでさまざまな変化が起こります。たとえば、交感神経が活性化したり、ストレスホルモンが過剰に分泌されたりします。そうなると、血糖値や血圧が上昇し、脂肪が増加しやすくなります。
また、成長ホルモンの分泌が低下し、筋肉が減って脂肪が蓄積されやすい状態になります。脂肪が増えると体内のインスリンが正常に働かなくなってしまいます。この状態が慢性化したのが糖尿病です。睡眠時無呼吸症候群が糖尿病を誘発したり、悪化させたりすると言われているのはこのためです。
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の原因
糖尿病の主な原因のひとつは、バランスの悪い食事
このように、睡眠時無呼吸症候群は糖尿病を引き起こす原因の1つとしてあげることができます。しかし、ご存知のように糖尿病は生活習慣病とも呼ばれており、その発症の原因はほかにもあります。糖尿病の主な原因のひとつは、バランスの悪い食事を続けることによる食生活の乱れです。暴飲暴食をすることが多いと、脂肪を大量に摂取することも多くなります。そして、このような食生活の乱れは、睡眠時無呼吸症候群を引き起こす原因にもなります。睡眠時無呼吸症候群は多くの場合、首やあごに脂肪がついたり、アルコールの摂取で筋肉が緩んだりすることによって、のどがふさがれて発症します。
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の相互作用によって症状がさらに悪化することも
つまり、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病が合併しやすいのは、それぞれが同じ原因によって発症するためでもあります。2つの病気を併発している人のなかには、どちらが先に発症したのかわからないという状態の人も少なくありません。この2つの病気は、相互作用によって症状がさらに悪化することもあるため、注意が必要です。
睡眠時無呼吸症候群による糖尿病の発症を防ぐために
睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の両方の原因である食生活の乱れを解消するのがもっとも効果的
睡眠時無呼吸症候群によって糖尿病が引き起こされるのを予防するためには、睡眠時無呼吸症候群と糖尿病の両方の原因である食生活の乱れを解消するのがもっとも効果的です。栄養のバランスのとれた食事を1日3回決まった時間にとることが基本となります。
発病を防ぐためのに―運動、アルコール、睡眠薬、寝る姿勢などに注意
そして適度な運動を心がけて、適正体重が維持できるようにしましょう。次に、お酒は飲みすぎないことです。過度のアルコール摂取は上気道を支える筋肉を弛緩させ、気道を狭くさせる原因となります。また、睡眠薬の多用も睡眠時無呼吸症候群を悪化させる原因となるため、服用前には必ず医師と相談をしましょう。さらに、寝る姿勢を工夫してみることも大切です。仰向けで眠るよりも横向きで寝た方が上気道の閉塞を軽減できる場合があります。生活習慣を見直し、快眠を得られる健康的な生活を目指しましょう。
自分自身の生活習慣を見直すでさまざまな病気に対するリスクを減らしましょう
いきなり生活習慣のすべてを見直すのは難しいかもしれませんが、できることから少しずつ取り入れてみてください。食生活の乱れは、睡眠時無呼吸症候群や糖尿病以外にもさまざまな病気を引き起こす原因となっています。自分自身の生活習慣を見直すことで、睡眠時無呼吸症候群や糖尿病、その他のさまざまな病気に対するリスクを減らしましょう。
参考)睡眠時無呼吸症候群の検査や治療ができる病院は、インターネットで検索できます。
http://www.kaimin-life.jp/index.html