【連載もの】介護制度について考える 第3回(平成24年9月号掲載)
まずは、利用料金の9割を支給される介護保険の申請 愛知大学 地域政策学部 教授 西村正広氏
■右半身と言語の不自由。早期リハビリ、早期退院
ひとくちに脳梗塞といっても、その症状は十人十色です。母の場合は、右半身の不自由と言語の不自由、そしてものを噛むことや呑み込むことに不自由がありました。
治 療も症状によって十人十色ですが、入院の翌日からリハビリテーション(機能回復訓練)が始まり、不自由は徐々に改善していきました。しかし、脳梗塞の後遺 症は「元どおり」にまで治ることは困難で、ある程度の不自由が残ることは覚悟しなければなりません。家族としても本人としても、身体が「元どおり」に戻る まで入院してリハビリを続けたいと願います。
ところが入院から数週間たつと医師から退院するように言われます。釈然としま せんが、高齢化が進んで入院を必要とする人が増えているので病院が足りません。医療保険の財源も不足しています。そこで早く退院してあとは家庭で介護をし てくださいという政策が進められてきたからです。
■増加の介護保険利用者。不満や改善求める声も
私はそうした医療の事情を知っているので、母が入院したと聞いた時から「早期退院」を見据えた準備を始めました。第1にやったことは介護保険の利用手続きです。
介 護保険は、高齢者が介護サービスを利用する際、その料金の9割を支給してくれる制度です。医療保険や年金と同じ公的な保険です。ホームヘルパーやデイサー ビスの利用、施設への入所など、介護サービスはお金がかかります。その負担を補ってもらえるのですから、介護が必要になったら介護保険の利用は欠かせませ ん。
介護保険がスタートしたのは平成12年。それ以前から介護を必要とする高齢者がどんどん増えていました。介護サービス の費用が利用者の家計にのしかかり、国や自治体の財政をも圧迫していました。そこで「家族介護から社会的介護へ」というスローガンの下に、国民が広く財源 を負担する仕組みとして介護保険が創設されたのです。
介護保険は、40歳以上の国民が納めた保険料を財源として確保し、 サービスの内容や利用料などの基本部分を全国ほぼ共通に国が定め、どこに住んでいても少ない費用で安心してサービスを利用できるものとされました。しかし 現実にはさまざまな制約や問題があり、サービスの利用者や事業者などからは常に不満や改善を求める声が起こっています。
■70数項目のアンケート。訪問調査と要介護認定
介護保険に加入して保険料を払っているからといって、誰でも介護サービスを利用できるわけではありません。利用するためには市から「要介護」の状態であるという認定(要介護認定)を受けなければならないのです。介護保険を利用するための最初の関門が要介護認定です。
区役所へ出かけ「母が脳梗塞で介護保険を利用したい」と伝えると、窓口で事情を聞かれながら簡単な書類に必要事項を記入して申請が受け付けられました。そして数日後、不自由の程度を調べるため、区役所から母の入院している病院へ調査員がやって来ました。
調 査員は母の手足の不自由や日常生活のようす、視力聴力、認知症の症状などについて70数項目のアンケートに沿って小1時間ほどあれこれ調べて帰りました。 これは「認定調査」と言われるもので、介護保険を申請するとまずこの調査が行われます。認定調査の結果や主治医の意見書などをもとに、母が介護保険を受け るための認定が下されるのです。
調査から1カ月ほど後に、認定の結果が届きました。
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西村正広氏略歴:日本福祉大学大学院修了
社会保険中京病院
ソーシャルワーカーなどを経て現職
専門:社会保障