WEBワライフ

三河・遠州地域の介護施設検索・介護情報総合サイト「ワライフ」

【連載もの】介護制度について考える 第1回(平成24年7月号掲載)

50実の母親が倒れて見えてきた問題点。 愛知大学 地域政策学部 教授 西村正広氏

■脳梗塞で倒れた母。ついに来たXデイ
昨年10月の夜。札幌の母が脳梗塞で倒れたという電話が飛び込んできました。夕刻からだんだんと右半身の動きが鈍り、ろれつが回らなくなってきて、近所の人が救急車を呼んだとのこと。

その第1報を聞いて、『ああ、Xデイがやってきたなあ』と思いました。

母は74歳。82歳の父と2人暮らしです。私は18歳のときに札幌から名古屋へやって来て30数年。名古屋で就職して所帯を持ち、すっかり名古屋の人間になっています。

毎 年札幌へ帰省していましたが、この10年ほどは帰省するたびに両親が年老いていくのを感じていました。そして両親の介護問題が間近に迫っているなあとも感 じていました。母や父が介護を必要とする状態になることは十分予想できることでした。いろんな状況を頭の中で思い描いては、「こんなときはこんなふうにし よう」と考えていました。そして、ついに「その日=Xデイ」がやってきたのです。

 

■いくつもの問題に右往左往と試行錯誤
私は愛知大学(豊橋)で、医療や社会福祉の政策や制度を研究しています。教員になる前は名古屋の中京病院でソーシャルワーカー(医療制度や社会福祉制度の 相談員)をしていました。高齢者の介護制度についても、これまで調査や研究をいろいろやってきました。いわばその道の「専門家」です。でも情けないことに 母が倒れた「Xデイ」から半年あまり、私はいくつもの問題を前にして右往左往と試行錯誤を余儀なくされてきました。

たとえば私と両親との距離の壁。私の自宅から電車、飛行機、バスを乗り継いで、両親の住む実家まで5~6時間かかります。この半年、何度か名古屋と札幌を往復しましたが、仕事をやり繰りして時間を作らなければなりません。もちろんお金もかかります。

入 院した母は、適切な治療とリハビリのおかげで杖での歩行や身の回りのことを自分でできる程度まで回復しました。でも糖尿病や高血圧症のため食事療法や服 薬、通院が必要です。父も数年前から脚が弱り、心臓病で服薬が欠かせません。難聴や軽い認知症もあって周囲との対話がうまく行かないことがあります。

実家は札幌郊外。自然環境は抜群ですが、商店や公共機関、医療機関などは遠く、クルマでなければ行けません。ご近所も高齢化していて行き来や助け合いをしにくくなってきています。隣の学区に住む叔母(母の妹)がクルマで買い物や通院を手伝ってくれる頼みの綱です。

母 が退院すると、両親の生活は困難に直面します。入院前はテキパキ元気に動き回っていた母が杖を使うようになって、家事が回りません。両親とも自宅で暮らす ことを望んでいて高齢者住宅や施設に入る意志はありません。そうなると自宅で介護保険のサービスを利用することになります。

 

■専門家でも戸惑う不可解なルールなど
そこで「専門家」である私の出番なのですが、いざ介護の制度を使うとなると面倒な手続きや不可解なルールや限界をいろいろと思い知らされます。頭で知って いることと実際との違いが次々と出てきます。以前から「こんなときはこんなふうにしよう」と考えていたこともなかなか思いどおりに行きませんでした。

私は戸惑いましたが、家庭の立場で介護制度に向き合ったから発見できたこともありました。ここではそんな「専門家」の体験をもとに、あらためてわが国の介護制度を考えてみます。

————————————————————–
西村正広氏略歴:日本福祉大学大学院修了
社会保険中京病院
ソーシャルワーカーなどを経て現職
専門:社会保障

前の記事 介護・健康コラム 次の記事