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【連載もの】介護制度について考える 第13回

母の負担とデイサービス  愛知大学 地域政務学部 教授 西村正広氏

 

 

 

変えられない五十年の習慣

平成二十四年、季節は春。母の脳梗塞発症から五ヶ月経過してようやく両親の暮らしが落ち着いてきました。右半身にやや不自由の残る要支援二の母、そして歩行が不安定で認知症が進みつつある要介護一の父、傍から見るとあぶなっかしいけれど、まわりの方々の手助けも受けてなんとか生活はできていました。
そんな中で心配だったのは、父の身のまわりの世話をする母の負担でした。五十年連れ添った夫婦ですから、どうしても長年の習慣で母が家事や父の世話を担います。父もそれを当然のこととして受け止めます。食事の時には母が料理の支度をして食卓まで運び、父は座ったまま食べるだけ。母は下膳してお茶を出し、洗い物をする。そんな昔からの習慣が変わりません。以前の父は〝昭和ヒトケタ〟世代にしてはよく気が付くタイプで、共働きだった母を気遣って家事などもこなしていましたが、足腰が弱くなったせいか認知症のせいか、家のことや母の手助けをすることはほとんどなくなりました。

 

母の負担

父と母それぞれにケアマネジャーが付いていましたし、家にやってくるヘルパーさんや訪問看護師さんもそれぞれの立場で両親の暮らしを気にかけてくれます。そんな介護サービスの皆さんが口をそろえて心配していたのはやはり父の世話にかかる母の負担でした。もちろん家事の多くはヘルパーさんが支えてくれますが二十四時間の暮らし全般にまで手がまわりません。
一番の問題は、母自身がそうした負担を減らすための工夫や「手抜き」を出来ないことです。たとえば味噌汁はお湯を注ぐだけのインスタントが便利だと言っても、自分でダシから取って作らないと気が済みません。自分のやり方を変えるほうがかえって負担になると言います。

 

デイサービス

自分で自分を変えることが出来ず、どうしても昔からの習慣に縛られて疲れてしまう母をどうしたら良いか。先号でも紹介したように、週に2回ほど父にデイサービスを利用させ、母に休息の時間を取ってもらうのが有効だろうとケアマネジャーも私も考えました。しかし父本人は頑としてデイサービスを受け入れませんでした。
「昼間だけ施設に出かけてゴハンを食べたり遊んだりするんだよ、送り迎えもしてくれるし」と勧めても「そんなところに行く必要はない」と言います。頼み方を変え「お父さんがデイサービスに行ってる間、お母さんが休めるから」と言っても「おれは自分のことは自分でやっている。お母さんには世話になっていない」と主張します。もともと母への思いやりのある父でしたから、「母が休める」と言えばその気になってくれると期待しましたがだめです。
認知症のため、自分の立場や母の負担を理解することが出来ないのです。
「お父さんの世話で疲れてしまう」と訴えながらも手抜きができない母。デイサービスの利用を受け入れない、というより利用の必要を理解できない父。このままでは再び母が倒れてしまうおそれがありました。

 

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西村正広氏略歴:日本福祉大学大学院修了
社会保険中京病院
ソーシャルワーカーなどを経て現職
専門:社会保障

 

 

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