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【連載もの】介護制度について考える 第16回

クルマを手放す(1)  愛知大学 地域政務学部 教授 西村正広氏

 

 

 

一周年

いろいろな困難を抱えながらも要介護一の父と要支援二の母は平成二十五年の正月を迎えました。「相互老老介護」も一周年です。ホームヘルパーや訪問看護、ケアマネジャーといった介護保険サービスに支えられ、両親二人を一緒に診てくれる主治医にも状況を理解してもらって協力を得、ご近所の知人や親類にもたくさんの手助けをいただきました。私は名古屋に居ながら両親のまわりの人々や介護サービスの「支援の輪」を見つめ、連携を取り、時には札幌へ出向いて調整を図ったりする役割でした。

 

やめられない運転

こうして一年過ぎて両親の日常は安定してきました。でも不安のタネは尽きません。一番の心配は、この連載の第十回でも述べたように父の自動車運転でした。父はかつて大型除雪車の整備や修理をする技術者だったので、大型自動車や大型特殊、牽引などすべての運転免許を持って乗りこなしていました。クルマの運転にはとても自信がありましたから高齢だからといって運転をやめようとしませんでした。たしかに昔は上手でしたが高齢になれば運転に必要な感覚や機能は低下します。同乗してみると速度のムラや動作の遅れ、ハンドルのふらつきなど危険そのものでした。しかし、その危険を危険であると認識できないのです。

 

免許更新は甘い?

齢者の運転免許更新に際しては講習予備検査や高齢者講習が必要ですが、そうした制度のハードルは低いようです。父は認知機能低下を指摘されたのに、過去に事故や違反がなかったとかで八十歳を超えても免許を更新できました。高齢運転者標識(四つ葉マーク)も七十歳以上は付ける必要があるけれど「努力義務」だそうで、父は付けません。高齢者の事故が多発しているにしては規制が不十分な気がします。もちろん個人差があるので、免許は何歳までといった線引きは困難でしょうが、家族としては悩ましいところです。

 

傷だらけのクルマ

平成二十五年の年始に札幌へ行った際、私は父のクルマを見て驚きました。前も後ろもバンパーが傷だらけ。おまけに車庫の入り口や壁にもクルマが当たった傷がいっぱいでした。父に尋ねても記憶があやふやで、どこでどのように傷つけたのか思い出せません。母に聞くと、車庫入れのときによくぶつけるとのこと。昨年の秋までは目立った傷がなかったので、この冬に入ってから、雪のせいもあって急に運転能力が落ちたようです。幸い他車や人に当てたことはないものの、これではもう運転は無理です。
もうクルマは手放して免許証も返還しよう。私はそう父に提案しました。しかし認知症の父は、時間軸に沿って自分の運転能力の衰えを自覚することができません。母もまた、クルマが無くなると買い物や通院がとても不便になるので、不安がありながらもクルマを手放すことに大きな抵抗を感じているようです。両親とも納得しません。
無理やり免許証を取り上げてクルマを廃車にすることもできますが、高齢者夫婦の貴重な足を奪い、暮らしの支えを外すことにもなります。心理的にもダメージや喪失感を与えるおそれがあります。どうしたらよいか、私は悩みました。

 

 

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西村正広氏略歴:日本福祉大学大学院修了
社会保険中京病院
ソーシャルワーカーなどを経て現職
専門:社会保障

 

 

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