西村なぎさのほんわか日暮らし 第11回
光と愛の溢れる芸術家松井守男画伯
豊橋生まれで、国際的に評価されている芸術家・松井守男画伯を豊橋人が知らないとなると世界中から叱られてしまいます。その反面、松井画伯は「僕、日本では知られていないからね」と、とても気さくにお話しされる。
10月3日から「光の画家 松井守男展」がホテルアークリッシュ豊橋で開催されました。レセプションパーティーでトークショウのお相手をさせていただくという人生がひっくり返るほどの大役を仰せつかりました。
御年72歳の松井守男画伯。これまで歩んでこられた人生の中にはエピソードがいっぱい。武蔵野美大を主席卒業、フランス国費留学、ピカソとの出会い、レジオン・ドヌール勲章叙勲など華々しいワードも多くありますが、その一方で妬み、裏切り、苛め、「人」の醜さをいやほど見て、孤独と向き合ってこられた。画伯の代表作に『遺言』という作品があります。死を覚悟して取り組んだ作品。2年半の歳月をかけ縦2M、横8Mの大カンバスに世界一細い面相筆を使って完成させました。画伯41歳の時のことです。
「初めは〝こんちくしょう〟みんなで俺のこといじめやがって」と恨みつらみをこめて走らせていた筆ですが、いつしか幾重にも「人」という字を描き重ねていたそうです。画伯が自ら遺作と見なした『遺言』と初めて向かい合った時、ガラスケースにも額にも入れられていないその絵を見て私は、深呼吸している気がしました。死を覚悟して描いた人の絵だとはとても思えませんでした。
プロデューサーを交え画伯とトークショウの打ち合わせをするはずが、これまでに起こったエピソードを夢中になって話してくださる画伯。どんどん世界に引き込まれる私。辛かった出来事もユーモアたっぷりにお話しくださいました。松井画伯の優しい笑顔と、フランス語のイントネーションで出てくる三河弁。不思議と聞き心地がよくてどんどん気持ちが豊かになっていく、そんな感覚がしました。画伯の作品、特に『遺言』は幾重にも重ねた色が光を放つと評されています。『遺言』を発表した後、画伯ご自身も「光」をテーマに作品に取り組まれています。そんな画伯からも柔らかくて暖かい光が放たれています。
包容力ともいえる松井守男画伯の光に私は包まれ、私の醜い部分は浄化され、穏やかな自分に生まれ変わりました。初めて父と母に感謝することができたのです。