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【連載もの】介護制度について考える 第18回

一度で懲りた「運転ボランティア」  愛知大学 地域政務学部 教授 西村正広氏
 

 

 

クルマのない春

先号では両親がクルマを手放すまでの経緯をご紹介しました。クルマが無くなり、やはり老夫婦にとって移動は不便になりました。ちょっとした買い物ひとつでも叔母に電話してクルマで送り迎えしてもらう必要があります。通院にはタクシーを呼ばなければなりません。お金もかかります。
平成二十五年四月、長い冬が去って待望の春がやってきたけれど、徒歩での外出は父も母も半径五十メートルが限界。行けるのは向こう三軒両隣りが精一杯。町内会の集会所にも行けません。芽吹き始めた緑を眺めに散歩へ出ることもままなりません。どうしても地域との付き合いは疎遠になり家に引きこもることが多くなってしまいました。

運転ボランティア

そんな両親が外出できる機会や手段をなるべく増やしたいと思っていたところ、ケアマネジャーから「運転ボランティア」を紹介されました。これは札幌市内のNPOが取り組んでいるサービスで、公共交通機関で外出できない虚弱な高齢者を自家用車に乗せてボランティアが運転してくれるものです。利用料は実費程度なのでタクシーよりも安く、利用者の都合に合わせて通院や買い物にも行ってくれるとのことでした。
従来、自家用車による有償運送は「白タク」と呼ばれ禁止されていましたが、平成十八年の道路運送法改正で新たな制度が創設されました。これにより、一定の条件を満たせば自家用車を利用したボランティアによる有償運送についても法的に認められ、そうした運転ボランティアも可能となったのです。

カミカゼタクシー?

これは有難いと、母は早速利用することにしました。ところが利用の手続きに行った母は「どうもあの運転ボランティアは信頼できない」と言います。NPOの事務所に行ったところ、対応に出た中年の男性は不愛想で、ボランティアだから事故の責任は一切取れないと何度も言われたそうです。また運転ボランティアを利用するには会員になる必要があって入会金を三千円も取られたとのこと。私もそれを聞いて、NPOにしては胡散臭いなと思いました。でもやはり便利で魅力的なサービスだから、とりあえず利用してみることにしました。
そして一週間後の通院日の夜、母から電話が来ました。いきなり「あんなカミカゼタクシーはもうこりごりだ」と言います。よくよく話を聞いてみると、たしかにひどいものでした。まず自宅に迎えに来たのが約束より
二十分遅れで、驚いたことに先客が乗っていたそうです。相乗りするなんて話は聞いていませんでした。まあ仕方ないと思って乗り込むと、病院とは逆方向に走ってさらにまた一人乗せてからやっと病院へ。件の運転ボランティア氏は母と同年配の高齢者で、運転は荒っぽくて生きた心地がしなかったそうです。料金は距離に応じて支払うことになっていて、請求されたのは千円ちょうど。タクシー代とほとんど変わらない金額で、遠回りして病院に行っておきながら距離計算も大雑把のようです。母がこりごりだというのも分かります。
どうやら、運転ボランティアとは名ばかりで、改正された道路運送法を利用して白タクまがいに営利を狙った活動のようです。
結局、利用したのは最初の一度だけ。入会金の三千円はもったいなかったけれど、ボランティアを騙る悪質なグループもあることを知る授業料となりました。 

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