膵がんのPET診断
膵臓は胃の後ろにある長さ15センチぐらいの臓器で、膵頭部、膵体部、膵尾部の3部位に分けられます。膵臓の中心を主膵管が通っていて、膵液を十二指腸へ送っています。膵頭部は十二指腸に、膵尾部は脾臓側にあります。図1は膵臓付近のCT画像です。この画像から、膵臓がお腹の真ん中付近にあることがよくわかります。
膵臓の働きは、食物の消化を助ける消化液を分泌する外分泌機能と、ホルモンを分泌する内分泌機能です。消化液(膵液)は、糖質を分解するアミラーゼ、たんぱく質を分解するトリプシン、脂肪を分解するリパーゼなどの消化酵素、核酸の分解酵素を含んでいます。膵臓で作られるホルモンは、糖の代謝に必要なインスリン、グルカゴン、ソマトスタチンなどが分泌されています。インスリンは、血液中の糖を使ってエネルギーを作ります。血液中の糖(血糖値)が低下すると、グルカゴンが分泌され、肝臓に糖を作らせて血糖値を上昇させます。
膵臓は身体の中にあって、化学工場のような働きをしていて、食べた食物を消化し、ホルモンによって糖をエネルギーに変えるという、2つの働きを調節する役割をしています。膵臓がうまく働かないと、各細胞に栄養が供給されず、エネルギーが産生できなくなってしまいます。
この様に、消化液を分泌する細胞と、ホルモンを分泌する細胞が集まった臓器です。
膵がん
膵がんは、早期発見が非常に困難な上に進行が早く、きわめて予後が悪いがんです。2011年の統計では、膵がんは男性では肺がん、胃がん、大腸がん、肝臓がんに次いでの第5位、女性では大腸がん、肺がん、胃がんに次いでの第4位であり、年々増加傾向です。日本における膵がんの死亡者数は2011年の統計で28,829人で、2008年の膵がんの罹患数が、29,584人とほぼ同数です。これは早期に見つけることが困難であり、また、見つかったときには、既に他の臓器に転移してることが多いことを示しています。ですから他のがんでも同じですが、いかに早く見つけることが出来るかが、治療の鍵になります。
診断と検査
血液検査:膵がんではCEA、CA19−9、DUPAN−Ⅱなどの腫瘍マーカーが上昇しますが、腫瘍マーカーが上昇してからでは転移していることが多く、早期発見は困難です。
超音波検査:図2に超音波検査での膵臓を示します。超音波検査では、膵頭部から膵体部の一部までは描出出来ますが、膵体部の後半から膵尾部にかけては、描出困難です。
CT検査:膵臓は図1のように全体像を描出できますが、造影検査をしない限り腫瘍の存在を見つけることは困難です。
MRI検査:CTでは腫瘍の存在診断に優れているのに対し、MRIでは腫瘍の性質を評価する質的診断に優れています。MR胆管・膵管画像(MRCP)は、内視鏡を使って検査していた胆管や膵管の造影検査(ERCP)を非侵襲的に検査します。MRCPでは、閉塞した膵管の上流の膵管も描出できるという利点があります。
図3はMRCP画像です。
PETによる膵がん検査
膵がんについても、他のがんと同様PET検査は重要な情報を提供してくれます。しかも全身検索なので、早期発見から進行がんの転移検索まで可能ですが、炎症病変との鑑別は注意を要します。
早期膵がん
30代の女性で、背部痛と心窩部痛があり、膵炎として入院された方です。ERCPを施行したところ、膵頭部主膵管が途切れており、膵腫瘍を疑いCT、超音波検査などを行ったが、明らかな腫瘍が指摘できず、PET検査を施行しました。その結果、膵頭部に集積があり(図4,5:矢印)、膵がんが最も疑われて手術を施行しました。術後の病理所見から浸潤がんを認め、膵管上皮内を進展する膵がんでした。膵がんは一般的に高齢の方が罹患するがんで、若い方の例は大変珍しいです。また膵がんは自覚症状がない場合が多いのですが、この方は膵頭部の主膵管にがんが出来て、主膵管を塞ぎ膵炎が発症したために早く見つけることが出来ました。
発見の遅れた膵がん
60代男性の例です。特に自覚症状もなく、元気で仕事をしている方です。久しぶりに自分の身体のチェックをしたいとのことで、PET健診をお受けになりました。
最初にお腹を超音波検査をしたところ、肝臓にいくつかの腫瘍が見つかり、転移性肝がんを疑われました(図6:矢印)。CTでは造影剤を使用していませんが、同一部位に低吸収域として描出されていました。この時点では何が原発かはわかりませんでした。
PET検査では上腹部にいくつかの集積が見られ、悪性腫瘍の存在が認められます(図9:矢印)。詳しく見ると、赤矢印で示す膵尾部に膵癌を認め、黄矢印で示す肝臓の集積はこの膵がんが肝転移したものです。
図7は膵尾部のCTですが、矢印で示すところが腫大を示すものの、がんと正常組織の区別は単純CTでは区別が付きません。図8はこのCT画像にPETを重ねた画像です。腫大した膵尾部に一致して集積を認め、しかも腫大していないリンパ節にも集積を認めます。
膵がんも含め、早期のがんは自覚症状がないことが大部分です。ですから出来るだけ早くがんを発見することが大切です。