重複がんとPET診断
重複がんとは
がんが身体に出来て大きくなると、血液やリンパ管などを通して他の臓器などに転移することは良く知られています。元のがんを原発、転移したがんを転移性がんといいます。たとえば大腸にがんが出来て肺や肝臓に転移すると、大腸がんが原発で、肺と肝臓にできたがんは転移性肺がん、転移性肝がんと言います。ところが、がんは一箇所だけで発生するものでなく、複数の臓器に同時にもしくは時期がずれて発生することがあります。つまり原発が二箇所以上あることになり、これが「重複がん」「多重がん」と言います。
この発生時期により「同時性重複がん」「異時性重複がん」に分けられます。「同時性重複がん」とは二種類以上のがんが、一年以内に発生した場合を、「異時性重複がん」は一年以上経過して別のがんが発生した場合をさします。
重複がんの発生頻度は以前よりも増加しています。これは高齢化とともに、医療の発達によりがんになっても生き延びる人が増加し、さらに新たながんが発生する可能性が多くなったからです。
症例一(中咽頭がんと肺がん)喫煙歴:20本/日 47年間
舌にしみる感じがするようになり、三ヵ月後には咳が出始め、五ヵ月後には舌右奥に腫瘤を自覚するようになりました。しかし病院に行ったのはさらに二ヵ月後でした。
診察の結果、舌根部右側に腫瘤があり、生検の結果、低分化扁平上皮がん(中咽頭がん)と診断されました。MRI検査等で頸部リンパ節転移を認め、全身の状態を知るためにPET検査を行いました。
PET検査の結果は図1です。中咽頭がんは矢印Aで示す部分です。矢印B、Cは中咽頭がんがリンパ節転移したものです。この画像の矢印Dで示す強い集積は、右肺に出来た肺がんです。肺がんもかなり大きく、
肺門リンパ節転移も認めます。両方とも気づくのが遅く、治療が間に合わない状態です。
症例二 (肺がんと膵がん)喫煙歴:40本/日 26年間
頭痛にて近医受診したところ、脳のMRI検査にて多発性腫瘤を指摘、検査したところ肺がんを疑ったが確信が得られず、PET検査を施行しました。
PET検査の画像は、図2と図3です。矢印Bが最初に発見された転移性脳腫瘍で、部位は右の小脳です。胸部中央(縦隔)から頸部にかけてのリンパ節に複数の集積が見られ(矢印C)リンパ節転移していることがわかります。原発のがんは矢印Aで示す右肺の下葉肺門の肺がんです。この方はさらに右副腎転移(矢印D)をしています。肺がんの遠隔転移としては脳転移、副腎転移が多く、この方はまさにその典型です。
さらにこの方の場合、重複がんとして、膵がんも見つかりました(矢印E)。これは肺癌の転移ではなく、膵がんとして新たに発生していて、しかも既に膵臓周囲のリンパ節にも転移しています。
症例三 早期発見の重複がん(大腸がんと胆嚢がん)喫煙歴なし
PET健診で早期の重複がんが見つかった方です。特に自覚症状のない方で、ご自身の身体のチェックのために受診しました。
PET検査の結果が図4と図5です。矢印Aの集積が胆嚢がん、矢印Bは大腸がんです。※は良性腫瘍の耳下腺腫瘍です。腫瘍マーカーは基準値以内で、便潜血も陰性でした。大腸がんは内視鏡で確認し切除、胆嚢がんも手術によって切除しました。いずれも早期がんであったため、抗癌剤治療もなく、再発もしていません。
まとめ
どのようながんであっても、早期発見が大切です。症例一、二の方々は自覚症状が出てから病院に行っています。
症例一の方は自覚症状のある中咽頭がんと自覚のない肺癌はほぼ同時期に発生し、しかもかなりの大きさに成長し、リンパ節転移もしています。遠隔転移はないものの治療は困難です。
症例二の方は肺がんの方が先に発生したと思われ、肺がんの脳転移から見つかり、しかも既に副腎転移もしています。このことだけでも治療が困難であるのもかかわらず、成長の早い膵がんまで出来ています。やはり治療は困難です。
以上の二例に限らず、重複がんは喫煙者の方に多いです。タバコによる影響で、舌がん、咽頭がん、喉頭がん、食道がん、胃がん、肺がん、膀胱癌などが発生します。つまり喫煙者の方々は、タバコの影響で発生する様々な癌にかかりやすいのです。タバコを吸っていて、がんにならない方もいます。しかしやはり喫煙はがんのリスクを高くしています。
症例三の方々はタバコは吸われません。そのため重複がんであっても二つのがんの関連性はなく、同時に別々ながんが出来ています。しかしPET検査によって早期に見つけ、治療は簡単に終わっています。つまり重複がんであっても、発見が早ければ少しもがんは怖くないのです。
PET検査は全身のがんを見つけることが出来るので、がんの早期発見には大変有効です。