親の介護 アルツハイマーの母から学んだこと その六
親の介護 アルツハイマーの母から学んだこと その六
患者と家族、両者にとってより良い選択
母をもう少し在宅で介護するか施設に入院するかどうかで迷っていた私に道を開いてくれたのは医師の言葉でした。
「アルツハイマーという病気の場合、患者さんだけでなくとそのご家族にとって一番いい治療を考えなくてはなりません。患者さんご本人の治療はもちろんですが、世話をする家族が肉体的に疲れ病気になったり、精神的に追い込まれ取りかえしのつかないようなことになったりしたらいけないですし、また患者さんが嫌な思いをして苦しむことで病気の進行を早める可能性もあり、そうしたリスクを少しでも減らすより良い選択をすることが大事です。認知症の知識がある専門のスタッフに世話を任せることがご本人にとってもいい場合もあります。」
母にとって何が良いのか
医師のその言葉に私はハッと目が覚めたような気がしました。今まで悩んでいたのはいわば自分の見栄や体裁ではなかったか、家族の特に妻の苦しみに本当に思いを馳せていたか、何より母にとって何が一番良いのかを考えていたかなど、私は大切なことに目を背けてきたのではないかと思うようになりました。母は病気だから優しく接しないといけないと理解していても、ストレスからついつい感情的になってしまい、それに対し反撃や逆に怯えたような表情したのを見て「しまった」と反省することもしばしばありました。そうした私の行為は母の病気にとって大きな悪影響を与えてきたのではないかと反省しました。
専門家との連携
私の母の場合、幸い家庭以外で人を大変困らせた行為はなかったと思います。近くのスーパーに買い物に行き、計算能力が落ちていてなかなかお金が出せなくて店員さんや順番待ちの人に迷惑をかけたことを人伝に聞きましたが、その他は今のところ私の耳には入っていません。
最近、認知症が疑われる高齢者の自動車事故、認知症の高齢者の監督義務と責任が問われた鉄道事故の裁判、「老老介護」に疲れての心中などなど、高齢者、特に認知症の人が関わる事件事故の話題が続いています。私にとっても決して他人事とは思えないことばかりです。私のところでも起こり得たことと、とても心が痛くなります。
母の異変が始まったころ私はまったく無関心で妻に任せきりでした。妻は必死に力になってくれる人、専門家を探し求めました。その姿勢に私は多くのことを学びました。