PET健診
PETを取り巻く環境
PET装置の原理が考え出されたのは、CT・MRIと同様に1950年代の初頭でした。
その後CTは1970年代には商品化され、MRIは1980年には日本に導入されました。
しかしPETは臨床の場よりも長く研究施設で使われていました。これはPET検査を行う
ためには、検査の目的にかなう薬剤を適宜開発しなければならなかったためです。ところが、
1975年に井戸達雄氏によって開発されたFDGは、当初は脳のブドウ糖代謝を画像化す
るための薬剤でしたが、がんにもよく集積することがわかって、がん診断に使われるように
なりました。特に海外において使われ、アメリカにおいては1998年から保険適応になっ
ています。
本邦においても1994年から、がんの早期発見を目的としたPET検診が山中湖クリ
ニックで開始されました。しかし健診料金が高く一般の方は受けることはできませんでした。
2000年後半になると、PET健診施設が日本各地に作られるようになり、それぞれの施
設が「ミリ単位の早期がんを見つけることが出来る」と宣伝したので、学会から注意喚起さ
れました。学会側ではこのことの反作用で、1㎝以上の大きさが無いと診断できないとの見
解を発表しています。
PET検査はがん診断の切り札のような言われ方をされていましたが、2006年3月3
日の読売新聞にて、国立がんセンターのがん検診で85%のがんが見落とされていたとの報道
がされました。しかし、この報道に対しては各PET施設からの反発と、学会からの反論も
あり、当該国立がんセンターからも3月14日付で予防・検診研究センターの見解が記載され
ました。3月3日の記事は記者が勝手に書いたことで、がんセンターの意思が正確に伝わっ
ていないとのことでした。
また2013年2月21日にアメリカの核医学会が、PET検診でがんを早期に見つける意
義は無いとの見解を発表しました。その理由が、何の症状も無い検診において、がんの発見
率が1%しかないから意味が無いとしたのです。これに対して日本核医学会はアメリカの核
医学会に対して正式に反論しています。つまりPETをつかわないがん検診でのがんの発見
は0.2%で、このことと比べて十分に高く意義があるものだと反論したのです。
PET装置は2000年頃に突然出現し、がん診断に対して究極の検査装置的な扱いを受
けために、過剰な期待とそれに対する反発など、正しい判断が十分なされていませんでした。
今回これらのことをまとめてみたいと思います。
PETの分解能(ミリ単位のがんは見つからないの?)
PET装置の分解能はFWHM( 半値幅) として表現されます。表1がそれにあたります。
表1
当院の装置のFWHMのカタログ値は6.2㎜と大きいのですが、実際の検査では5㎜とか、3㎜の様により高分解能画像を作成しています。ところが一般の施設では、カタログ値は4.9㎜と高分解能装置でありながら、実際の検査では7.3㎜と分解能の悪い画像を使用しています。
乳がんの例を紹介します。図1、2は右乳がんの方で、2〜3㎜の乳がんが複数散在しています。図1は一般的な施設での画像です。ここには乳がんは描出されていません。図2は当院の条件で画像を作っています。矢印で示すところに小さな集積が見られます。これが乳がんです。乳房は脂肪が主である為FDGの集積が低く、乳がんに僅かでもFDGが集積すれば判断できます。
図1 図2
FDGが正常でも良く集まる肝臓を例にして見ましょう。図3、4は転移性肝癌の例です。。大きさは直径8㎜です。一般的な方法の図3では判断できません。しかし、当院の方法では転移性肝癌があることがしっかり解ります。
図3 図4
これらのように、適切な画像を作ればミリ単位のがんも見つけることが出来ます。
PETが苦手ながん
前立腺がん
前立腺がんは長らくFDG-PETでは見つけれないと言われ続けて来ました。しかし画像の作り方により早期の前立腺がんもよくわかります。図5、6は前立腺がんの症例です。図5は一般的な画像で、この画像では矢印がさすところに前立腺がんを指摘することは出来ません。ところが図6では前立腺右葉の外腺にFDGの集積を認め、前立腺がんを指摘することが出来ます。この方のPSAは4.89と低くがんも極初期のものでした。
図5 図6
大腸がん
大腸がんは一般的に便潜血検査で調べることの多いがんです。ただし便潜血陽性でも大腸がんの方は、3〜5%しかいません。また早期大腸がんの4割は便潜血陰性だといわれていて、早期大腸がんを正確に見つけるのはかなり困難な方法だと思われます。
PET検査では大腸がんを見つけるのは困難だという施設と、多くの大腸がんを見つけることが出来ると主張する施設が混在しています。これは検査の方法が異なっていたり、画像の造り方も異なるので見解が異なってきます。
当センターでは二回の検査を行って、検査精度を上げています。一般的な施設ではPET検査は一度しか行いません。そのため大腸には不随運動による蠕動運動があり、この運動が起こるとそこにFDGが集積します。図7の矢印の様にFDGが集積してしまいます。大腸がんも同じように集積するために区別が出来なくなってしまいます。ところが蠕動運動を促進させるために食事をさせ、二度目の検査を行うと、蠕動運動による集積は消えて行き、大腸がんの場合は図8のように残ります。このため当センターでは、大腸がんを最もよく見つけます。
図7 図8
PET健診のがんの発見率
PETを使わない一般のがん検診によるがんの発見率は0.2%ぐらいといわれています。PETでのがんの発見率は、中国・アメリカでのPET検診では、1.0%、日本全体のPET検診の平均値は、1.8
% ( 学会発表)、光生会病院PET健診では、3.6
%です。
この数値が高いか低いかは、判断が難しいですが、日本におけるがんの発生は、100人から、一年間に4人の人から『がん』が発症するといわれています。
当院の発見率が高いのは、他の施設が苦手としている大腸がんや、前立腺がんの発見が一位、二位をしめているからです。
表2
まとめ
PET装置はまだ新しい機械です。その構造的なことはメーカーが主導で行われていますが、画像の作り方や操作については使う側に任されている部分が大きいです。そのために使う側が、装置に熟知していなければなりません。ただ残念なことに、世界中の使用者にそこまで理解して使用している方は少ないように思います。アメリカや中国でのPET検診によるがんの発見率は1%しかないのも、そのような理由によると思います。
一般の方からすれば、PET検査を受ければどこでも同じだと感じていると思いますが、実は施設によって、読影する医師によってもこの差はかなり大きいものだと思っていただいてよいと思います。つまり検査を受ける側が、どこの施設で受診するか選択しなければならないのです。