糖尿病で入院!? ~そのとき病院で何をするのでしょうか?~
医療法人秀麗会山尾病院 看護・介護部長
糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士
兵頭 裕美 氏
糖尿病による入院にはいくつかのタイプがあります。では、具体的にはどのようなタイプがあり、どういった検査や治療が行われるのでしょうか?
日ごろの生活で血糖値の改善を図っている方やお薬などの糖尿病治療を開始している方にとっては、「糖尿病で入院した」という話を聞かれると気になると思います。
今回は、「糖尿病による入院」についてご紹介します。
「糖尿病による入院」のタイプ
平成26年の厚生労働省「患者調査の概況:推計患者数(調査日に全国の医療施設で受療した推計患者数)」によると、糖尿病による入院患者は20,900人でした。糖尿病を主疾患として治療している患者は222,300人なので、糖尿病患者さんのうち、約10人にひとりが入院していることになります。
糖尿病の入院には主に、①検査、②教育、③治療の3種類のタイプがあります。
一般に入院と言えば、具合の悪いところを治療する、または手術を受けるという印象が強いですが、「検査入院」「教育入院」という、いわゆる治療目的ではない入院も多くみられます。
では、それぞれの入院生活ではどのようなことが行われるのでしょうか?
「検査入院」…膵臓の状態や合併症をチェックする
糖尿病そのものは自覚症状が少ない病気です。そして、糖尿病では高血糖の状態が長く続くことで起こる合併症が大きな問題となることは、今までも紙面でお伝えしてきました。ここであえて繰り返しますが、糖尿病は自覚症状が少ないゆえに知らず知らずの間に動脈硬化や糖尿病腎症、網膜症などの全身にわたる合併症を起こすことが怖いのです。そして、これらの合併症は血管や神経がダメージを負い、編成してしまうことによって起きるため、一旦起きてしまうと完全に元に戻ることはありません。
そこで、合併症や各臓器へのダメージの状態を早めに知り、対処するために行われるのが検査入院です。検査入院では、膵臓のインスリン分泌機能などの機能検査(図1)、腎臓・末梢神経・網膜など糖尿病で特に侵されやすい臓器の検査(図2)も行います。
図1:糖尿病の検査
図2:糖尿病合併症の検査
入院期間はおよそ3日~1週間程度で、入院のタイミングは医師の指示によって決められます。
糖尿病合併症を疑う症状(視力低下、下肢のしびれ、歩行時の下肢痛など)がみられた場合や動脈硬化を起こしやすいとされている高血圧や肥満のある糖尿病患者さんに対して、教育入院を勧められることが多いようです。
「教育入院」…疾患や生活習慣を学んで良好な血糖コントロールを目指す
教育入院という言葉は聞きなれない方も多いと思います。教育入院とは一言でいうと、糖尿病治療のための食事や運動などの生活習慣を学ぶための入院です。
生活習慣病である糖尿病は生活習慣や食生活の改善がとても大切です。とはいえ、長年の生活習慣は変え難いものです。糖尿病にかかると、日常的な食事や生活上の注意点など、学ばなければならないことが増えて、患者さんの負担は大きくなりがちです。しかし、正しい知識を得ることなく、好ましくない生活習慣を続けて糖尿病を悪化させることも心配です。そこで、病院で一定期間生活し、糖尿病に関する正しい知識や生活習慣を得て、退院後も患者さんご自身で継続できるレベルを目指す「教育入院」が多くの病院で実施されています。
初めて糖尿病にかかった方の他にも、これまでの治療経過で血糖コントロールが思わしくない方に教育入院が勧められます。教育入院による生活習慣の見直しで血糖コントロールが改善した方も多くみられるので、気になる方は一度医師に相談してみてはいかがでしょうか?
入院中は糖尿病教室と呼ばれるものに参加し、疾患についての知識や治療方法、低血糖時の対処方法などを学びます。医師や看護師によるケアの他に、栄養士による食事指導、薬剤師による薬物療法指導など、いろいろな分野の専門職によるアドバイスを受けることができます。
また、先に説明した検査入院と同時に行う病院もあります。入院期間は3~5日の短期入院プログラムを実施している病院もありますが、1~2週間のところが多いです。
「治療入院」…緊急性を要することもある
検査入院や教育入院では、緊急性を要しない場合がほとんどです。しかし、糖尿病の急性合併症発症による治療を行うため入院が必要となることがあります。これが「治療入院」です。
著しい高血糖による昏睡(外部からどのような刺激が加えられても反応がない状態)、糖尿病ケトアシドーシス(インスリンが不足したときに起こる、脱水・意識障害・ショック・昏睡などのこと)、けいれんなどの緊急を要するものです。
このような症状は、速やかに対処しなければ命に関わることもあるため、入院して集中的に治療する必要があります。
血糖コントロールをして合併症を防ぎましょう
ここまで、「検査」「教育」「治療」3つのタイプの糖尿病の入院をご紹介しました。
糖尿病でまず防がなくてはならないのは、血糖コントロールがうまくいかないことにより入院治療が必要となる緊急事態を招くことです。そして、動脈硬化をはじめとした糖尿病の合併症も注意しなければなりません。
これらを防ぐカギは、血糖コントロールにあります。そして血糖コントロールのためには、糖尿病やその治療に対する正しい知識を得て、より良い生活習慣を日々実践することが大切です。膵臓のインスリンを作る細胞がダメージを受けているためにインスリンの量が絶対的に不足する1型糖尿病の方や、生活習慣の改善だけでは血糖コントロールが難しく糖尿病治療歴が長い方は、検査入院で定期的に膵臓の状態や合併症をチェックしておくと良いでしょう。
最近糖尿病と診断された方でまだ教育入院をされたことがない方は、医師に相談してみてはいかがでしょうか。とくに食事面では、カロリー計算や炭水化物量などのバランスを考慮して作られた食事を毎日食べることができるので、どれくらいの量と内容が適切かを体感的に知ることができます。食事のみでなく、ご自身の日常生活全体を見直し、継続できる方法や工夫を専門家に相談できる良いチャンスとなるでしょう。
参考文献)日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療ガイド2016-2017
図1・2引用)みる見るわかる糖尿病 http://mirumiru-diabetes.jp/
糖尿病についてしっかり理解したい患者さん向けのお勧め本
「糖尿病治療の手びき 2017 (改訂第57版)」出版社:南江堂
WEBワライフ「糖尿病網膜症を知ろう~定期的に眼科受診をしていますか~」