医療法人社団 和恵会 超高齢社会で知っておきたいこと 連載第2回 加齢性疾患と健康寿命 (フレイルを中心に)
「フレイル」とは「虚弱」状態
今回は、女性の健康寿命に焦点を絞り、紹介したいと思います。女性が要介護状態になる原因でロコモティブ症候群が重要です。ロコモティブ症候群は、骨、関節、筋肉などの運動器に障害が起こり、立つ、歩くなどの基本的な生活機能が低下する状態です。つまり、身体的虚弱状態のことですが、日本老年病学会ではこの 「虚弱」 のことを 「フレイル」 と呼んでいます。
フレイルとは、健康な状態と要介護状態の中間の状態で、適切な処置によって機能を戻すことができ、可逆性がある状態とされています。このフレイルには、身体的なフレイル (つまり、ロコモティブ症候群など)以外にも、心理的・認知的の虚弱 (認知症、うつ病など)、および社会性の虚弱 (閉じこもり、困窮、孤食など) が存在します (図①)。この多面的なフレイルが、連鎖的に作用して、介護が必要な状況になってしまうことを臨床的によく経験します。
身体的要素・精神的要素・社会的要素
一例を挙げると、独居生活で近所に身寄りもなく、社会的に孤立し (社会的フレイル)、徐々に活動性が低下、歩くのも困難に (身体的フレイル) 、そして、認知機能も衰え (心理的・認知的フレイル)、 自宅での生活が困難になり、介護施設に入所するようなケースです。独居で暮らす高齢者は増えており、孤食が大きな問題となってきています。これらのフレイルは、早期に適切な介入をすることで、再び健康な状態に戻る可能性があるので、地域で関心を持って、まず気づいてあげることがとても重要です。
運動・栄養・社会参加を三位一体に行うことが、サルコペニア予防に効果的
身体的フレイルの最大の原因はサルコペニア (筋肉減少症) です。一般的に人間は何もしなければ、40歳から年に0. 5 %ずつ筋肉量が減少し、80歳頃には30~40 %も加速的に低下、脂肪に置き換わると言われています。筋肉の原料は蛋白質ですが、加齢に伴い食事で摂取した蛋白質が筋肉に置き換わりにくくなります (蛋白同化抵抗性の増大) 。
このため、1日3食を通して全体的に蛋白質をとることが重要です。軽く汗をかいたり息がはずんだりする程度の運動 (有酸素運動) を行うことも、四肢筋肉量の維持に有効であると報告されています。そして、ボランティアや老人会などに積極的に参加することもサルコペニアを予防するのに大切です。このように、運動・栄養・社会参加を三位一体に行うことが、サルコペニア予防に最も効果的です。
筋肉量を評価する方法
ここで、簡単に筋肉量を評価する方法がありますので紹介します。東京大学高齢者社会総合研究機構が提唱している方法で 「指輪っかテスト」 というものがあります。これは、親指と人差し指で作る指輪っかで利き足ではないほうの下腿の最大周囲部分 (つまり、ふくらはぎ部分) を軽くあてて調べる方法です(図②)。これで、 「隙間ができる」 人達は、「囲めない」 人達と比べて約6.6倍もサルコペニアが多かったと報告されました 。また、それだけではなく、総死亡リスクも高かったと報告されています。
「オーラルフレイル」―食べる機能が虚弱した状態
最後に 「オーラルフレイル」 を紹介します。簡単に説明すると、食べる機能が虚弱した状態を 「オーラルフレイル」 と言います。口腔の些細な衰えであっても、介護が必要な原因になる場合があります。滑舌が悪くなった、食べこぼしが増えた、むせるようになった、噛めない食品が増えたなどありましたら注意して下さい。オーラルフレイルから、食事量が減り、低栄養を引き起こし、身体的フレイルを招きやすいので特に注意が必要です。かかりつけ歯科医を作ることは、健康的な食生活を送るのにとても大事です。
周囲の人がフレイルになっていないかどうかを気づいてあげられるように
今回は、女性の介護予防を中心に、フレイルについて書きました。前述しましたが、フレイルは、適切な処置によって機能を戻すことができる状態です。まず、自分がフレイルになっていないかを客観的に評価すること、そして、身近な人がフレイルになっていないかどうかを気づいてあげられるようにして下さい。特に、社会的フレイルは、地域で気づいてあげるべきです。「おせっかい」 と思われるかもしれませんが、その行為が地域のフレイル対策に不可欠だと思います。
医療法人社団 和恵会 理事長
湖東病院 院長
医学博士
猿原 大和 氏
WEBワライフ「医療法人社団 和恵会 超高齢社会で知っておきたいこと 新連載第1回 『健康的に過ごすために重要なこと』 」