糖尿病と骨の関係を知ろう
医療法人秀麗会山尾病院 看護・介護部長
糖尿病看護認定看護師 日本糖尿病療養指導士
兵頭 裕美 氏
みなさんは「骨粗しょう症」という病気について、ご存知でしょうか?
おそらく、その病名は聞いたことがある方も多いと思います。「骨粗しょう症」とは、骨強度の低下を特徴とし、簡単な外力で骨折のリスクが増大する病気です。
では、糖尿病と骨粗しょう症の関係はご存知でしょうか?
一見、血糖値が高くなる糖尿病とは何も関係がないように思われがちですが、実は深い関係があるのです。今回は、糖尿病と骨、骨粗しょう症との関係についてお伝えします。
骨粗しょう症の診断
骨の強度は、骨密度と骨質で説明されます。つまり、骨粗しょう症を診察する際には、骨の量(骨密度)だけではなく質にも留意する必要があります。
ところが、骨量は骨密度測定検査で測定することができますが、骨質を評価する方法は今のところありません。骨粗しょう症の診断基準は日本では、骨密度の値により正常・骨減少・骨粗しょう症に分類されますが、たとえ骨密度が正常であっても、脆弱性骨折(骨がもろくなることで僅かな外力によって外傷を伴わずに起こる骨折)があれば「重症骨粗しょう症」と診断されます。
意外に多い『隠れ重症骨粗しょう症患者さん』
一般の手足の骨折と違い、背骨部分(椎体部:ついたいぶ)の骨折では、痛みを伴う骨折は30~40%にすぎず、ほとんどは痛みを伴わない骨折であるといわれています(某有名女優さん出演の「“いつまにか骨折”かもしれません」というCMもありましたね…)。つまり、痛みがないために診断を受けていない椎体骨折の患者さん、いわゆる『隠れ重症骨粗しょう症患者さん』は相当数存在しているものと推定されます。
椎体骨折のある患者さんはさらなる椎体骨折のリスクが高くなり、椎体骨折が多くなるほど寝たきりになってしまうリスクが上昇するだけでなく、余命まで短くなってしまうという報告もあります。このような骨折を予防することが、骨粗しょう症診療を行う上で一番重要な課題といえます。
糖尿病に合併する骨粗しょう症の特徴
骨の中には古くなった骨を壊す「破骨細胞」と、新しい骨を作る「骨芽細胞」があります。そして、これらのバランスによって骨密度が保たれています。インスリンは血糖値を下げる働きをするホルモンですが、同時に骨芽細胞が正常に働くために必要なホルモンでもあります。実際、インスリン分泌がされない1型糖尿病患者さんでは、骨密度が低い傾向にあります。
一方で、極端な体重減少(痩せ)などで骨への荷重が弱すぎる状態では、破骨細胞機能が活発になり骨密度が低下することが知られています。高血糖の状態では骨芽細胞機能が障害されるため、糖尿病患者さんの骨密度は低下すると考えられますが、糖尿病の病期によっては高インスリン血症(血液中のインスリン量が高い状態)や肥満(骨への荷重が十分な状態)があることで、必ずしも骨密度が低下していないこともあります。
持続的な高血糖状態では酸化ストレスの影響により骨質が劣化する
しかし、近年、持続的な高血糖状態では酸化ストレスの影響により骨質が劣化することが明らかになってきました。つまり、骨密度だけで2型糖尿病患者さんの骨折のリスクを判断することは難しいといえます。実際、2型糖尿病患者さんでは、骨密度が正常であっても脆弱性骨折発生リスクが、糖尿病でない方と比べて著しく高くなっているのです(糖尿病患者さんは糖尿病でない人に比べて、1型糖尿病では約6.9倍、2型糖尿病では約1.4倍骨折リスクが高まるという報告もあります)。しかし、前述したように現在は骨質を評価する検査がないため、2型糖尿病を合併する骨粗しょう症(「生活習慣病関連骨粗しょう症」といいます)では、骨減少の段階から治療を開始することが推奨されています。
糖尿病合併症と骨粗しょう症の関係
糖尿病患者さんが転びやすい理由
糖尿病の進行とともに生じる種々の合併症は、様々な形で骨密度の減少や転倒や骨折リスクを高くしています。糖尿病患者さんの転倒リスクは糖尿病でない人の1.5~3倍です。糖尿病患者さんが転びやすい理由は、網膜症等の視力障害、末梢神経障害によるバランス保持能力の低下や歩行障害、低血糖によるふらつき、認知機能低下による注意力低下、高血糖による筋肉量の低下といった、合併症や血糖コントロールの不良などが挙げられます。
血糖コントロールがしっかりできていないと骨粗しょう症が進行
血糖コントロールがしっかりできていないと骨粗しょう症が進行し、骨から溶け出た成分が血管に沈着することで動脈硬化が進み、骨粗しょう症を介した脳梗塞や心筋梗塞のリスクが上昇します。このように、糖尿病とその合併症は骨粗しょう症と深く関係しています。
骨粗しょう症を予防するために
バランスの良い食事を
カルシウムやビタミンDが不足しないよう、乳製品やきのこ類、魚介類などを織り交ぜたバランスの良い食事をとることが最も大切です。また、やみくもに痩せようとするのではなく、筋力を維持しながらのダイエットを行いましょう。ひざや腰に痛みがなければ、できれば水泳やエアロバイクなどの非荷重運動ではなく、ウォーキングのような荷重運動が骨の健康維持には望ましいと考えられています。
骨粗しょう症の治療が心筋梗塞や脳卒中の予防に
骨粗しょう症治療薬はどんどん新しいものが開発されていて、最近では高齢患者さんも骨密度を増やすことができるようになってきました。また、骨密度が増えることで、硬くなった血管も柔らかくしなやかに改善することがわかってきました。
骨粗しょう症についてもよく理解して、その予防や悪化防止を
糖尿病と同様、骨粗しょう症も自覚症状がないので、積極的に治療する患者さんが少ない傾向にあります。しかし骨粗しょう症の治療が心筋梗塞や脳卒中の予防にもつながるのです。いくつになっても健康で生き生きとした生活を送るために、糖尿病と同様に骨粗しょう症についてもよく理解してその予防や悪化防止に努めていただきたいと思います。
参考)
- 清野弘明監修:糖尿病の検査値マスターガイド,メディカ出版
細井雅之編著:魔法の糖尿病患者説明シート,メディカ出版