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【連載もの】介護制度について考える 第8回(平成25年初夏号掲載)

西村氏
母の負担を減らすために  愛知大学 地域政策学部 教授 西村正広氏

 

■変わらない夫婦の役割

平成23年の暮れ、糖尿病で入院をしていた母が退院したので年末は私の妻が母のために札幌まで出向いてくれました。私は名古屋の自宅で1人だけの年越しをしました。
母は脳梗塞の後遺症で右手の自由が利かず歩行も不安定。それに加え、年末の退院後は血糖値を下げるクスリ(インスリン)の自己注射を1日4回しなければな らない状態でした。朝昼夕と就寝前には何種ものクスリとインスリンの注射、食事のカロリーやバランスにも気をつける必要がありました。不自由な身体と面倒 な糖尿病の管理。自分自身が支援を必要とする身でありながら、母は退院してすぐに自分で食事の支度や掃除洗濯などの家事を始めてしまったそうです。
私の妻が母に手伝いを申し出ても「できることは自分でするよ」と、なかなか手伝いを受け入れる雰囲気ではないそうです。まだ現役の主婦を降板したくないという気持ちなのでしょう。
一方、父のできることと言えば週3回のゴミ出しだけ。昔から欠かすことのなかった夜の戸締りも最近はよく忘れます。母が頼めば簡単な家事はしますが、忘れたり失敗したりしてかえって母のストレスになるので結局母が自分でなんでも抱え込む破目になります。
50年余り続けてきた夫婦の「役割分担」は簡単には変えられません。そんな札幌の両親の様子を妻から電話で聞き、このままでは母はまた近いうちに倒れてしまうと私は危惧しました。

■負担の分散計画

母 が再び倒れないためにどうするか。答えは簡単です。母の家事負担をなるべく他者に任せれば良いのです。でも母にとって家事を担うことが自分のプライドと存 在意義につながっています。母のプライドを守りながら、その負担を、上手く父や身内やご近所やホームヘルパーさんなどに分散させることが必要です。
正月3日まで札幌で過ごした妻が名古屋に戻って来て、私は妻と一緒に「母の負担分散計画」を検討してみました。できれば毎日ホームヘルパーさんを利用する のがベストですが、母も父と同じように他人様に家の中のことをされるのには抵抗があります。そこで週2回やってくる父のヘルパーさんの利用時間を1時間か ら2時間に増やし、掃除や洗濯などのほか「母と一緒に調理の下ごしらえする」のを新たに頼むことにしました。
それ以外に朝のゴミ出しや除雪、買い物、通院、毎日4回の服薬や自己注射など、ヘルパーさんに頼めないものが色々あります。除雪は近所に住む知人男性に有 料でお願いできますが、買い物や通院はやっかいな問題です。父は要介護1の状態ですが運転免許は与えられていてクルマを運転します。免許証を返還して運転 を止めるように何度も説得しましたが聞き入れません。父が運転しなくても済むようにタクシーチケットを渡してなるべくタクシーを使ってもらい、運転ができ る叔母(近くに住む母の妹)にもできる限り通院や買い物の送り迎えをお願いすることにしました。
服薬は、曜日と朝昼夕に分かれたポケットがある「お薬カレンダー」にクスリを入れておけばのみ忘れを防げますし、ヘルパーさんにもチェックをしてもらえます
そんなふうにケアマネジャーとあれこれ話し合って、1日24時間週7日の暮らしや通院、ヘルパー利用などを盛り込んだ介護計画が立てられました。
高齢者の暮らしを支えるため、介護保険を使ってホームヘルパーを活用しましょうと一般には言われていますが、私の両親のように、利用する側に抵抗感が根強い場合もけっして少なくないのです。

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西村正広氏略歴:日本福祉大学大学院修了
社会保険中京病院
ソーシャルワーカーなどを経て現職
専門:社会保障

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