【医療】前立腺がんのPET診断から治療まで(平成24年12月号掲載)
■前立腺がんの発症
かつて前立腺がんは、日本人には少ないがんでした。ところが生活様式が欧米化し、食生活が野菜中心から肉食中心に、高タンパク・高脂肪の食事になり、前立腺がんの罹患率は急増、2005年の統計では全がんの11%、胃・大腸・肺がんについで4番目に多くなっています。
前立腺がんは高齢の方に多く発症します。若年者での発症はありません。これは高齢化に伴う男性ホルモンの影響が前立腺疾患に関わっているためです。
■前立腺がんの自覚症状
前立腺は、図1に示すように外腺と内腺の2層構造になっています。前立腺に多い病気の前立腺肥大は内腺部分が肥大する病気で、尿道を狭めて尿が出にくくなったり、頻尿になったりと自覚症状が出てきます。
前立腺がんの多くは外腺に発生します。このため初期には自覚症状がなく、がんが大きくなったときに初めて、前立腺肥大と同様の自覚症状が出てきます。自覚 症状が前立腺肥大と似ているため放置されることが多く、骨にまで転移した末期状態で発見されることも珍しくありません。前立腺がんはこのように早期発見の 難しいがんです。
■前立腺がんの早期発見
前立腺がん検診として最も多く行われているのは、前立腺がんの腫瘍マーカーであるPSA検査です。PSAは前立腺で特異的に作られる糖タンパクの一種で、 前立腺がんになるとPSAの分泌量が増加します。PSA値は血液検査によって調べられます。PSA値の基準は4.0 ng /ml以下を正常、4.1〜10 ng /mlをグレーゾーン(がんの危険性 20〜30%)、10.1 ng /ml以上になると強くがんが疑われ(がんの危険性 50%)ます。ただしPSA値は前立腺肥大、前立腺炎でも上昇し、前立腺がんにかかった場合のみ、増 加するわけではありません。そのためPSA値上昇が必ずしも前立腺がん発症とはイコールではないのです。
PSA値が10以上になると前立腺がんを疑って各検査を行います。超音波検査やMRI検査などの画像診断、直腸からの触診、そして最終診断は前立腺に針を挿しての生体組織検査によって細胞を調べて診断します。
■PETによる早期発見
光生会病院では、がんの早期発見を目的にPET検査を中心とした健診を行っています。この健診項目の中にはPET検査はもちろん、PSAなど7種類の腫瘍 マーカー、前立腺を中心としたMRI検査と超音波検査が含まれています。PET検査はブドウ糖に放射性同位元素を標識(以下、「FDG」)し身体の外から ブドウ糖が集まるところを調べます。がん細胞はほかの細胞に比べ多くのブドウ糖を取り込むので、どんなに隠れていても見つけることができます。ところが前 立腺がんはブドウ糖の取り込みが少ないために、見つけにくいがんでした。しかし画像再構成を適切に行うことで、前立腺がんもPET検査によって見つけるこ とができるようになっています。
図2は当健診で発見された前立腺がんです。PSA値は4.23と基準値を少し超えただけでした。一般的にこの値では前立腺がんと疑っての検査はせず、 PSA値がどのように変化するか経過観察する段階です。しかしPET検査によって右外腺にFDGの高集積を認め、MRI検査では同部位が低吸収域となって いたため、前立腺がんと診断しました。この方はその後、手術を受け、実際に極早期の前立腺がんと確認されました。
図3は毎年PET健診を受診されている方です。
図3の上段のように、毎年の検査においてPET、MRIでは異常は認められず、PSA値も4.0未満と基準値以内でした。これと比べて、下段が前立腺がん を見つけた時のPETとMRI画像です。MRIでは異常を指摘することは困難でしたが、PETでは前立腺の右外腺にFDGの集積(←)を認め、PSA値も 4.89と基準値をわずかに超えていたために前立腺がんと診断しました。この方も極早期の前立腺がんで、放射線治療を行いました。
■前立腺がんの治療
□ホルモン療法
前立腺がんは男性ホルモンの影響を受けて成長するために、ホルモン療法が有効です。しかしホルモン療法は、がんの種類によっては長期的な効果は期待できない場合があります。
□手術療法
前立腺がんが転移していない初期の段階の治療です。手術の方法は、開腹して前立腺を切除する方法と、最近では内視鏡を使用した手術、手術支援ロボット(ダ ヴィンチなど)を用いる方法があります。いずれも前立腺を切除することによる副作用として、尿漏れや勃起不全を生じる可能性があります。
□放射線治療
放射線を身体の外から前立腺がんに照射して治療する外照射と、前立腺がんに直接放射線源を埋め込む内照射があります。外照射について、最近の治療精度の向 上が著しく、前立腺の形に合わせた照射が可能となり、放射線感受性の高い直腸などに放射線が当たらない方法が可能となりました。また陽子線・重粒子線のよ うに治療効果の高い、しかも正常細胞には影響が少ない放射線も用いられるようになりました。放射線治療は比較的副作用も少なく、身体の負担も少ない方法で す。
□転移後の治療
前立腺がんがほかに転移すると、治療の選択肢は大変少なくなり、予後も悪くなります。治療としてはホルモン療法や抗がん剤治療が中心となります。さらに前立腺がんが骨に転移すると、余命も限られてきます。
■PETによる治療前後の比較
図4はPETによる前立腺がんの治療前後の画像です。上段はPETの全身像で側面から見ています。下段は前立腺の横断面です。左側は治療前のPET、右側は治療後のPETです。
この方も当院のPET健診によって前立腺がんが見つかった方です。自覚症状はまったくなく、PSA値は8.1でまだグレーゾーンでした。治療前の全身像(左)において、膀胱(→)の下の前立腺にFDGの高集積(→) を認め、横断面により前立腺右側外腺に前立腺がんがあることがわかります。前立腺がんとしは、前の2例よりも大きいですが、リンパ節転移や骨転移はなく、 前立腺がんのみの治療でよいので、この方は陽子線治療を選択しました。その結果が治療後の全身像(右)で、前立腺にFDGの集積はなく、前立腺がんが消失 しているのがわかります。
どのようなガンであれ早期発見することにより、身体に負担なく治療ができます。ですからいかに早期に発見・治療するかが大切です。PET検査ではこのように極早期の前立腺ガンを見つけることが可能です。
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